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金融政策と財政政策って何が違うのか?
政策・財政 2025/11/24 難易度: ★★☆

金融政策と財政政策って何が違うのか?

⏱ 約8分 #マクロ政策
著者:編集部 シリーズ:マクロ政策の基本 (第1回)

TL;DR

  • 金融政策は、日本銀行が金利やお金の量を動かして「物価の安定」を目指す政策。
  • 財政政策は、政府が予算(支出)と税金(収入)を通じて、景気や所得分配に影響を与える政策。
  • どちらも景気や物価に影響するけど、「誰が」「どのレバーを」動かすのかが違う。日本のように債務が大きい国では、その関係も重要な論点になる。

1. マクロ政策の二本柱

教科書やニュースで出てくる「景気対策」「インフレ対策」の多くは、次の二つに分類されます。

  • 日本銀行(日銀)が行う 金融政策
  • 政府(内閣・国会)が行う 財政政策

どちらもマクロ経済全体に働きかける政策なんですが、誰が意思決定するのか、どんな”レバー”を動かすのか、何を最優先の目的とするのか——これらがそれぞれ違うんです。

まず金融政策、次に財政政策を整理して、その後で両者の違いと関係を見ていきましょう。


2. 金融政策:日銀が金利とお金の量を調整する政策

2-1. 誰が何のためにやるのか

日本銀行の説明によれば、金融政策とは「公開市場操作(オペレーション)などの手段を用いて、金融市場における金利の形成に影響を及ぼし、通貨および金融の調節を行うこと」とされています。目的は物価の安定で、それを通じて国民経済の健全な発展に貢献する、というわけです。

ポイントを整理すると:

  • 担い手:日本銀行(中央銀行)
  • 目的:物価の安定(日本では「2%の物価安定目標」)
  • 手段:短期金利の誘導、公開市場操作、国債買入れ・売却など

2-2. 具体的に何を動かすのか

金融政策のメインの「レバー」は、次の二つに集約できます。

1. 金利(特に短期金利)

政策金利(無担保コール翌日物金利の誘導目標など)を上下させることで、企業や家計の借入金利、社債利回り、住宅ローン金利などに影響を与えます。

2. 中央銀行マネーの量

国債などを買い入れる(量的緩和)ことで、市場に供給される資金量を増やす。逆に、保有国債を減らしたり資金供給を絞ることで、金融環境を引き締めます。

日銀では、これらの方針が「金融政策決定会合」で決められ、実際のオペレーションを通じて市場に働きかけているんです。

2-3. どんなときにどう動くのか(ごく簡略)

景気が弱く、物価が目標より低いとき
→ 金利を下げる、資金供給を増やす(緩和)

景気が過熱し、物価が目標を大きく上回りそうなとき
→ 金利を上げる、資金供給を絞る(引き締め)

日本では長くデフレ気味の状態が続いたため、ゼロ金利・マイナス金利、そして大量の国債買入れなど「非伝統的な金融政策」が続いてきました。でも近年は、インフレ率・賃金の上昇を背景に、徐々に利上げと国債買入れの縮小(正常化)に向かっています。


3. 財政政策:政府が支出と税を通じて経済に働きかける政策

3-1. 誰が何のためにやるのか

財政政策は、IMFの定義では「政府支出と課税を用いて経済に影響を与えること」とされています。景気の安定、成長の促進、貧困削減などを目的としています。

日本の文脈で言い換えると:

  • 担い手:政府(内閣・財務省など)と国会(予算の議決)
  • 目的
    • 景気の安定(不況時の需要下支え、好況時の過熱抑制)
    • 所得再分配(税・社会保障を通じた格差是正)
    • 公共サービスの提供(教育・医療・インフラなど)
  • 手段
    • 一般会計・特別会計などの政府支出(公共事業、社会保障など)
    • 税制(所得税、消費税、法人税など)
    • 国債発行(赤字公債・建設公債など)

財務省は「財政とは、国が税金や国債で財源を集め、予算として配分し、公共サービスを提供する仕組み」だと説明しています。

3-2. 具体的な政策の例

景気が悪いときに取られる典型的な財政政策

  • 公共投資の拡大(インフラ整備、災害復旧など)
  • 企業・家計への補助金・給付金
  • 減税(所得税減税、消費税率の引き下げ/軽減税率) など

景気が過熱しインフレ懸念が強いとき

  • 歳出の抑制(投資の先送り、補助金の絞り込み)
  • 増税(需要を一時的に冷やす方向)

といった形で、需要を落ち着かせる方向に動きます。

3-3. 日本固有の事情:高水準の公的債務

日本の財政については、財務省自身も次のような点を課題として指摘しています。

  • 歳出のかなりの部分を国債発行に依存していること
  • プライマリーバランス(基礎的財政収支)が長年赤字であること
  • 債務残高対GDP比が主要国の中で際立って高いこと

このため、「景気対策としての積極的な財政出動」と「長期的な財政の持続可能性」とのバランスが、日本の財政政策の大きな論点になっているんです。


4. 金融政策と財政政策の違いと関係

4-1. 連携・コンフリクトの典型パターン

理想的には、次のように両者が同じ方向を向いて動くことが望ましいとされています。

  • 不況時:金融緩和+財政拡張で需要を支える
  • 過熱時:金融引き締め+財政健全化で過度なインフレを防ぐ

しかし現実には、利害がずれることもあります。

  • 政府:景気対策や人気取りのために「財政出動」を続けたい
  • 日銀:インフレや金融不均衡を抑えるために「利上げ」や引き締めを行いたい

特に、日本のように公的債務が大きい国では、こんな構図になりがちです。

  • 日銀が利上げを進めると、国債の利払い費が増えて財政が一段と厳しくなる
  • 一方で、物価が大きくぶれた場合には、金融政策で対応しないわけにもいかない

この形で、金融政策と財政政策の関係そのものが重要な論点になりやすいんです。


5. まとめ:レバーと担い手を整理しておく

金融政策

  • 担い手:日本銀行
  • レバー:金利、お金の量(資金供給)
  • 目的:物価の安定

財政政策

  • 担い手:政府・国会
  • レバー:政府支出、税制、国債発行
  • 目的:景気の安定、所得再分配、公共サービスの提供

二つの政策は、どちらが「正しい」というよりも、どの局面で、どちらをどれくらい使うべきかという組み合わせの問題になっています。

ニュースで「日銀の利上げ」「財政出動」「PB黒字化」といった言葉を見るときには、まずこの三点を押さえておくと、議論の全体像をつかみやすくなります。

  • 今は金融政策の話なのか
  • 財政政策の話なのか
  • それぞれのレバーがどちら向きに動こうとしているのか

この整理ができると、経済ニュースがぐっと読みやすくなりますよ。

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